お医者さんと治そう 慢性頭痛

[月経関連片頭痛について/甲南病院]

月経関連片頭痛について

甲南病院

患者さんへのメッセージ

神経内科部長 北村 重和 先生

2000年にトリプタン製剤が日本で使用できるようになって以来、片頭痛の治療が大きく変わりました。治療の選択肢が広がり、これまでなら寝込まないといけないような片頭痛でも、頭痛外来でしっかり片頭痛治療のスキルアップをすれば簡単にコントロールできるような時代になりました。
月経のときに頭痛が起きても、生理痛の一部と勘違いし、市販の痛み止めを服用して我慢している女性が大勢いらっしゃると思います。月経のときの頭痛の80%以上が片頭痛発作であるというデータもあります。生理の時に頭痛が起こりやすいという方はぜひ一度頭痛外来にこられることをお勧めします。
片頭痛の根治療法は残念ながら現時点ではありません。1回1回の片頭痛発作をひどくならないようにコントロールするのが重要です。月経関連片頭痛で悩んでいる方は「閉経」とともに頭痛がなくなることも多く、患者さんには「閉経を一つの目標としてがんばりましょう。」とお伝えしています。

日常生活や社会生活に大きな支障をきたすことがある頭痛があるのであれば、気軽に来院してください。それぞれの患者さんに適したテーラーメイド治療で、頭痛をコントロールしていきましょう。それこそが「頭痛外来」の役割なのです。

月経関連の片頭痛について教えてください
月経と片頭痛の間には密接な関係があります。女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が片頭痛に影響を及ぼすことが知られています。エストロゲンの血中濃度は排卵日と月経の開始日近くでピークとなります。エストロゲンの血中濃度が低下する時に片頭痛が起こりやすく、月経の2日前から開始3日目までの5日間に特に起こりやすいことがわかっています。この時期に起こる片頭痛発作は、いつもの頭痛に比べ重症であることが多く、悪心(吐き気)や嘔吐を伴いやすく、薬が効きにくい、頭痛の持続時間が長い、再発しやすいといった特徴があります。したがって、月経周辺に起こる片頭痛発作には注意が必要で、いつもより強い治療をすることが重要です。
因みに、妊娠中はエストロゲンが持続分泌されるため血中濃度が変動しないので、片頭痛発作が起こりにくくなったり、妊娠中期以降では全く起こらなくなったりすることもよくあります。しかし出産後はエストロゲン濃度の変動が戻ってきますので残念ながらまたいつもの片頭痛が起こるようになります。それどころか育児に振り回されて、妊娠前より片頭痛がひどくなる人は少なくありません。
また更年期を迎え、閉経するとエストロゲンの分泌はなくなりますので、片頭痛が軽くなり片頭痛から卒業できることも期待できます。

診察の流れについてお聞かせください
まずはどのような頭痛が起こるかを自分なりに整理してみてください。医師へ伝えるポイントは、①頭のどこに起こりやすいか?(片側か、両側か)、②頭痛がひどくなるとドクドクするのか(拍動性)、それとも一定の痛みか(持続痛)、③頭痛による日常生活への支障度はどれくらいか?(頭痛がしても平気で動けるのか、我慢して動くレベルか、寝込むこともあるのか)、④頭が痛い時に頭を振ってみるとどうなるか?(平気で振れるか、ひどくなるから振りたくないか)というものです。頭痛の頻度(週にまたは月に何回起こるか)、月経や排卵の時に起こりやすいかどうか、どのような時に頭痛が起こりやすいか(天気の悪い日、疲れたとき、外出したとき等)ということも重要です。
また頭痛以外の症状(悪心を伴うときもあるか、頭痛の時に光をまぶしく感じたり、音が耳障りだと感じたりするか)や、普段使っている薬(薬局で買う市販薬も含めて)の効き具合についても詳しくお聞きします。
頭痛外来に来られる患者さんは、市販薬でコントロールできなくて来られる方が多くいらっしゃいますので、市販薬が効かない片頭痛は全体の何%くらいあるかについてもお尋ねします。
また、より正確な診断と、治療方針を決めるために、2回目以降の診察には頭痛ダイアリー(後述)を活用しています。

頭痛ダイアリーを活用するメリットは何ですか
患者さんの中には片頭痛だけが起こるのではなく、片頭痛と緊張型頭痛などが混在している場合があります。片頭痛の急性期治療のもっとも重要なポイントは、いかに早いタイミングで、いかに自分にあった薬を飲むか ということです。片頭痛の初期の段階では、ズキズキするような痛みもなく、吐き気もありません。そのような段階で、今起こっている頭痛をちゃんと片頭痛と見抜いて早期服薬することが大事なのです。
自分の頭痛に慣れていない患者さんは片頭痛と緊張型頭痛の区別が難しい場合があります。頭痛ダイアリーを付けることは、今起こっている頭痛がどんな頭痛であるのかを習得するための手段になります。頭痛ダイアリーを付けて自分の頭痛を整理することによって、頭痛薬の飲み過ぎを防ぐことにもつながります。
また、頭痛ダイアリーには、どのような理由で頭痛が起きたのかも記載します。自分にとっての片頭痛の誘因が何であるのかも知ることができ、素早く片頭痛と見抜く参考にもなりますし、頭痛を怖がる必要もなくなってきます。
女性にとって片頭痛の2大誘因は、月経と低気圧と言われています。頭痛ダイアリーをつけることで月経と頭痛の関連が明確になる効果があります。また、低気圧が誘因となっていることを知らない患者さんは意外に多く、頭痛ダイアリーをつけて初めてそれに気がつく方もいらっしゃいます。
自分の頭痛は何が誘因で起こっているのか、いつ薬を服薬すればよいのかなど、患者さんにも勉強して頂いて、自分の頭痛を熟知し、頭痛をコントロールするためにも頭痛ダイアリーをつけることは大切です。

治療法についてお聞かせください
片頭痛の急性期治療薬として使われるのは、鎮痛薬(市販薬も含みます)とトリプタン製剤が代表的です。鎮痛薬だけで十分に片頭痛がコントロールできていればそれでいいでしょう。鎮痛薬の治療効果に満足できなければ頭痛外来にお越しください。さらに治療効果の高いトリプタン製剤を用います。先に申しましたように、月経周辺の頭痛はいつもより重症となるため、トリプタン製剤を用いないと満足度が上がらないことが多いです。
今起こっている頭痛が片頭痛であるかを見極めて、できるだけ早いタイミングでトリプタン製剤を服薬します。トリプタン製剤だけでコントロールができない頭痛に対しては、上手に鎮痛薬を組み合わせて使っていきます。鎮痛薬を1時間後に追加したり、最初からトリプタン製剤と鎮痛薬を同時に服用したりすることで、より確実に片頭痛をコントロールできるようになるでしょう。
頭痛の専門医と診察室で情報交換をしながら、自分の片頭痛治療のスキルをあげることによって、いつどのタイミングで服薬すればよいのかを自分で決断できるようになります。

私は「片頭痛日和」と言っていますが、「今日は片頭痛が起こりそうだな」「なんとなくあやしいな」と思う日があると思います。片頭痛は1つの要因でなく、多因子が積み重なって片頭痛が起こります。そんな日は自分の片頭痛の誘因となっているものを避ける、例えば人ごみの多い場所には出かけない、可能なら家でのんびりするなどの工夫も大切です。
甲南病院・外観甲南病院
神戸市東灘区鴨子ヶ原1-5-16
TEL:078-851-2161
http://www.kohnan.or.jp/kohnan/
神経内科部長 北村 重和

「慢性頭痛」は立派な病気です。頭痛の専門医に診てもらえれば、痛みをコントロールすることができます。
「頭痛で病院にいくなんて・・・」などと思わずに、日常生活に支障がでる頭痛があれば、我慢せずに頭痛外来を受診しましょう。