ノロウイルス【医師監修】感染しないための予防対策と感染を広げないための処理・消毒
感染力が強く、食中毒に関しては、年間の食中毒患者の半分以上がノロウイルスによるものです。さらにヒトからヒトへの感染力も非常に強く、集団感染を起こしやすいウイルスです。
ノロウイルスに感染しないための予防対策や、感染を広げないための処理、消毒方法を知ることで、感染拡大を防ぎましょう。
医師紹介
目次
強力な感染力 ! ほとんどの感染経路は経口感染
ノロウイルスに感染している人の糞便や嘔吐物には、わずか1グラムあたりに100万から10億個ものウイルスが含まれていています。
さらにノロウイルスは、そのうちの100個以下とごく少量で感染してしまうほど強力な感染力をもつウイルスです。そのため、家庭内ではもちろん、公衆トイレなどでも簡単に感染してしまう危険性があります。
症状が回復したあとも、1週間程度、長いときは1ヶ月もの間、糞便中にウイルスを排出し続けるため、処理や手洗いには十分注意が必要です。
感染経路のほとんどは、手指や食品などについたウイルスが口から体内に入る経口感染で、具体的には以下のようなことが原因で感染すると考えられます。
〇感染の主な原因
- ウイルスが含まれた感染者の糞便や嘔吐物に触れ、手指を介して口に入った場合
- ウイルスが含まれた糞便や嘔吐物が飛び散り、それを吸い込んだ場合
- ウイルスが含まれる二枚貝を生や十分に加熱せずに食べた場合
- ウイルスが含まれる井戸水などの飲料水を飲んだ場合
- 感染している人がウイルスがついた手指で食品に触れ、それを食べた場合
1,2は感染性胃腸炎の原因となり、3~5はウイルス性食中毒の原因となります。
ウイルス性食中毒の半分はノロウイルスが原因!
さまざまな原因がある食中毒ですが、その中でもウイルス性の食中毒は冬に流行します。
さらに、ウイルス性の食中毒の中でもノロウイルスは感染力が強く、年間の食中毒患者の約半分がノロウイルスによるものとされています。
繰り返し感染するノロウイルス…免疫はつかないの?
ノロウイルスにはいくつもの型があり、一種類ではありません。
ノロウイルスにかかったときに、その原因となったウイルスに対しては免疫を獲得することがありますが、別の種類のノロウイルスには、その免疫は効果がない場合があります。
そのため、ノロウイルスには何度でも感染する可能性があります。
症状と潜伏期間
ノロウイルスの特徴や症状は以下の通りです。
〇潜伏期間
約24~48時間
〇主な症状
吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
〇その他の特徴
- 症状がでてから10数時間から数日(平均1~2日)で回復する
- 嘔吐、下痢は、1日数回から、ひどい場合は10回以上になることもある
- 小児では嘔吐の症状が多く、大人では下痢の症状が多い
- 発熱することはあまりなく、熱がでても微熱程度なことがほとんど
- 感染しても症状が出ない場合や軽い風邪のような症状で済む場合がある
回復したあとも、1週間程度、長いときは1ヶ月もの間、糞便中にウイルスを排出し続けます。
しばらくの間は糞便の処理や手洗いに注意しましょう。
また、子供や高齢者、免疫が低下する病気にかかっている場合などは重症化したり、嘔吐物を詰まらせて窒息する危険があるため、こちらも注意が必要です。
治療法の基本は対症療法…脱水症状に注意!
ノロウイルスに対する特別な治療方法はありません。
下痢や嘔吐に対して脱水症状にならないように、点滴などで水分や栄養補給をしたり、吐き気止めの薬や整腸剤を使うなどの対処療法となります。
子供や高齢者は特に脱水症状への注意が必要です。吸収されやすいスポーツドリンクなども活用して、しっかりと水分補給をしましょう。
下痢止めの薬は、ウイルスを体内から排出することを妨げ、回復を遅らせることがあるため、極力使用しないほうがよいでしょう。
学校・幼稚園・保育園への登校・登園の目安
ノロウイルスに感染したときは、特に明確な出席停止期間は設けられていませんが、登校(園)の目安としては、それぞれ以下のように記載されています。
○ 症状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで
引用) 学校保健安全法施行規則
○ 嘔吐・下痢等の症状が治まり、普段の食事ができるまで登園を避ける
○ 下痢、嘔吐症状が軽減した後、全身状態の良い者は登校(園)可能だが、回復者であっても、排便後の始末、手洗いの励行は重要である。
丁寧な手洗いで感染予防
ワクチンや薬もなく、さらに感染力も強いノロウイルスを予防することは簡単ではありません。
そのような中でも身近で効果的な予防法は石鹸などを使って丁寧に手を洗うことです。
石鹸自体にウイルスを殺す効果はありませんが、手指の汚れを落とすことで、手指に付着しているウイルスを洗い流すことができます。
普段の手洗いはもちろん、特に、感染者の嘔吐物や糞便を処理したあとは必ず丁寧に手を洗うようにしましょう。
具体的には、以下図のような手順で石鹸などの洗浄剤を使って30秒程よく手指を洗い、その後、流水で十分に洗い流します。これを複数回繰り返すとより効果的です。
適切な嘔吐物や糞便の処理で感染予防
糞便や嘔吐物にはウイルスが大量に含まれています。
直接手指を介した感染はもちろん、嘔吐物などの処理や消毒が不十分だと、乾燥して舞い上がったウイルスを吸い込んで感染してしまう危険があります。
以下の手順を参考に、適切な処理で感染の拡大を防ぎましょう。
用意するもの
- 丈夫で使い捨てできる手袋
- 使い捨てできるマスク
- 使い捨てできるエプロン
- ペーパータオル / 使い捨できる雑巾・布
- ビニール袋
- 消毒液
消毒液の作り方
ノロウイルスを死滅させるためには、塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)の消毒液を使用します。アルコール消毒や石鹸では効果がないので注意しましょう。
塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液の濃度が200ppm(0.02%)であれば5分程度、1000ppm(0.1%)であれば1分程度浸すと、ノロウイルスをほぼ死滅させることができるとされています。
それぞれの濃度の塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液は、家庭用の塩素系漂白剤(ハイター、ブリーチなど)を以下の例のように水で薄めることで簡単につくることができます。
例)
200ppm(0.02%):
〇 1Lの水に対して家庭用塩素系漂白剤4ml
1000ppm(0.1%):
〇 1Lの水に対して家庭用塩素系漂白剤20ml
※家庭用塩素系漂白剤の濃度は約50000ppm(約5%)です
処理の手順
- 処理をする人以外を遠ざける ( 退出させる または 3m以上遠ざける )
- 窓を開ける、換気設備を使用するなどして換気をする
- マスク、手袋、エプロンを着用する
- 嘔吐物や糞便を布やペーパータオルで飛び散らないように静かにしっかりとふき取る
- ふき取った布やペーパータオルはすぐにビニール袋に入れ、密閉して破棄する
※このとき、濃度が1000ppm(0.1%)の塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液を内容物が浸る程度入れるとより安心です - 嘔吐物や糞便をふき取った場所とその周辺を、濃度200ppm(0.02%)以上の塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液で浸すようにふき取る
- 10分程度たったら水拭きをする
- 使用したマスク、手袋、エプロンなどは付着した嘔吐物や糞便が飛び散らないように、表面を包むように裏返しにまとめ、 5 と同様にすぐに処理する
- 処理のあとは丁寧な手洗いをし、引き続き十分に換気をする
嘔吐物や糞便で汚れた衣服などの処理
嘔吐物や糞便で汚れた衣類や処理の際に着ていた衣服は、ノロウイルスが付着している可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。
廃棄してしまうのが安全ですが、できない場合は適切な方法で消毒をしてから洗濯機で洗うようにしましょう。
消毒をせずに洗濯機で洗うと、洗濯槽や一緒に洗った衣類にもノロウイルスが付着してしまいます。
衣類の消毒の手順
- 使い捨てのマスクと手袋を着用する
- 付着している嘔吐物や糞便を飛び散らないように静かにしっかりと水洗いする
- 以下のどちらかの方法で浸け置き消毒をする
- 85℃以上の熱湯に1分間以上浸ける
- 濃度200ppm(0.02%)以上の塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液に30~60分浸ける
- 下洗いした場所など( 2 , 3 )に使用した用具などを濃度200ppm(0.02%)以上の塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液で消毒する
- 他の衣類と分けて洗濯機で洗う(高温の乾燥機などをあわせて使用すると殺菌効果が高まります)
※ 塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)の消毒液を使用する場合は、色落ちや生地が傷むことがあります
身近で感染者が出た場合は身の回りの消毒を!
身の回りのよく触れるところにはウイルスが付着していて、そこから感染してしまう危険があります。
家族や身近な人がノロウイルスに感染した際は、手すり、ドアノブ、おもちゃ、その他日用品など、よく触れるところを濃度200ppm(0.02%)の塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液で消毒しましょう。
その際、塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)消毒液は金属を腐食させる作用があるため、金属部分に使用する場合は、10分程あとに水拭きで十分にふき取りをしてください。
また、布類に使用する場合も、色落ちや生地を傷めることがあるため、注意して使用しましょう。
※当コラムは東京内科医会のご協力によって作成されています。
東京内科医会は、常に最新の医学知識を学び、最良の医療を実践している、熱意のある医師の集まりです。