百日咳【医師監修】特徴的な症状は長く続く激しい咳 ワクチン接種で予防を! 大人に流行することも
予防接種の普及により感染者は激減しましたが、1歳以下の乳児がかかると、重症化しやすく死に至る危険があるため厳重な注意が必要です。また、免疫は年数とともに弱まるため、大人で流行がみられることがあります。
発症初期に抗生物質による治療が有効なので、百日咳を疑ったら早めに医療機関を受診しましょう。
医師紹介
目次
症状は長く続く特徴的な咳発作
〇 潜伏期間
通常は1週間前後ですが、6~20日と幅があります
症状は、以下の3段階で経過するのが典型的です。
カタル期 ・ 1~2週間目
鼻水や咳、喉のかゆみといった風邪のような症状があらわれはじめ、次第に咳が強くなっていきます。発熱はないか、あっても微熱です。
痙咳(けいがい)期 ・ 3~6週間目
次に、以下のような特徴的な咳の発作が頻回に起こるようになります。この発作は夜間に多く見られ、咳き込んだ時に嘔吐することがあります。
百日咳の特徴的な咳発作 :
- 一度咳こみ始めるとコンコンコンコンと連続して咳こむ
- ヒューと笛のような音を立てて息を吸い込み発作が落ち着く
- 最後に粘り気のある痰が出ることがある
百日咳菌は鼻やのど、気管などに侵入したのち、さらにそれらの粘膜に侵入して毒素を産生します。この毒素により、このように特徴的で発作的な咳が起こされると考えられています。
回復期 ・ 6~9週間目程度
咳の発作が徐々に減っていき、数週間で症状が落ち着きます。
子供は重症化する可能性大 大人は軽症がほとんど
百日咳は大人では軽症のことがほとんどですが、子供の場合は、1歳以下、特にワクチンを接種していない生後半年未満の乳児では重症化しやすく、呼吸が止まってしまう発作(無呼吸発作)や呼吸が不安定になり顔が青紫色になるチアノーゼを起こしたり、全身のけいれんなどから突然死に至ることがあります。
百日咳にはワクチンがあり、予防接種後は子供でも比較的症状が軽くなることが多いです。
子供の症状
咳き込みが強いため典型的な症状に加え、以下のような症状がみられることがあります。
顔が真っ赤になる / 顔のむくみ / 目の充血 / 顔に小さな点状の内出血 / 嘔吐 など
また、以下のような状態がみられると入院治療になることがあります。
〇 入院治療になるケース
- 咳発作による体力消耗が激しい
- 不眠症状が強い
- 脱水症状がある
- 食欲不振が強い
- 呼吸障害がある
など
合併症として、肺炎や脳症があります。
大人の症状
大人の場合は典型的な3段階の症状(カタル期 → 痙咳期 → 回復期)で経過することは少なく、一度咳き込むと止まりにくい発作性の咳が長引く(2週間以上)だけのことがよくあります。
特徴的な、最後に「ヒュー」と音を立てて吸い込む咳発作は、1~5割の人にみられるとの報告があります。
合併症としては失神、不眠、失禁、肺炎、激しい咳に伴う肋骨骨折などが見られることがあります。脳炎や死亡などの重篤な例は0.1%以下で極めてまれです。
■ 参考資料
国立感染症研究所「百日せきワクチンファクトシート」
受診のタイミング 大人も放置せずに受診を!
子供の受診の目安
1歳未満の乳児が、激しい咳をしている場合は、なるべく早く医療機関を受診しましょう。特に、激しい咳に加え、以下のような様子がみられたら救急受診をします。
〇 救急受診が推奨される症状
1歳未満の乳児が激しい咳に加え
- 時々息を止めるような様子がある
- 唇の周りが青紫色になる(チアノーゼ)ような咳込みがある
百日咳の予防接種(四種混合など)をまだ受けていない場合は、受診の際に医師にその旨を伝えましょう。
予防接種受けた1歳以上の子供でも、1週間以上咳が長引く場合は、かかりつけ医を早めに受診しましょう。
また、地域の感染症の流行情報にも注意しましょう。
大人の受診の目安
症状が子供より比較的軽症なことが多いため、受診や診断が遅れることがあります。
単なる風邪として様子をみているうちに、しつこい咳だけが残るというように経過し、最終的には自然に治ってしまう場合も多いと考えられますが、この間に細菌をばらまいて周囲を感染の危険にさらしている可能性が高いです。
周囲を感染から守るためにも、咳が1~2週間以上長引く場合は、医療機関を受診しましょう。
強い感染力! 感染経路は飛沫感染
百日咳は、百日咳菌という細菌に感染することで起こります。流行時期は不明確で、1年を通して感染がみられます。主な感染経路は飛沫感染です。
飛沫感染 :
感染している人の咳やくしゃみなどに含まれる細菌を吸いこむことで感染します。
感染力がとても強いとして知られている感染症に麻疹(はしか)がありますが、百日咳菌の感染力は、この麻疹(はしか)ウイルスと同程度と考えられています。
〇 麻疹ウイルスはどのくらい感染力が強いの?
どんなに広い場所(体育館やコンサートのようなイベント会場など)でも、免疫をもっていなければ、同じ空間にいるだけで感染してしまいます。
感染力が強いとされているインフルエンザでは、1人の患者から感染するのは、免疫のない1~2人程度とされていますが、はしか(麻疹)は、1人の患者で免疫のない12~14人程度に感染するとされています。
そして、家庭内で感染する確率も高く、子供がかかると母親やきょうだいが感染する確率は約50%とされています。
百日咳は、一度感染しても生涯を通じての免疫(終生免疫)は獲得できないため、繰り返しかかることがあります。
ワクチンによる予防が効果的 定期接種 / 追加予防接種を受けましょう
百日咳の単独ではなく、四種混合または三種混合の予防接種に含まれています。二種混合には含まれていません。
〇 百日咳のワクチン
四種混合(DPT-IPV) :
ジフテリア(D)、百日咳(P)、破傷風(T)、ポリオ(IPV)
三種混合(DPT) :
ジフテリア(D)、百日咳(P)、破傷風(T)
百日咳はワクチン接種で予防するのが最も効果的です。接種することで百日咳の発症を80~85%程度防ぐことができると報告されています。
ただし、ワクチンの効果は4~12年で弱まってくると考えられているため、繰り返しての接種を検討することも必要です。
■ 参考サイト
厚生労働省 : 百日せき
定期接種
百日咳のワクチンは定期接種の対象です。対象の年齢内であれば無料で接種することができます。
2012年11月に四種混合ワクチンが導入され以降は、四種混合を接種するのが一般的です。
生後3か月から7歳5か月までの間に4回接種します。日本小児科学会では以下の接種スケジュールを推奨しています。
〇 定期接種スケジュール
1回目 / 2回目 / 3回目
・ 生後3~12か月の間
・ 各回の間隔は20~56日(3~8週間)までの間隔をあける
4回目
・ 3回目の接種から6か月以上(標準的には12~18か月)の間隔をあける
百日咳は乳幼児では死に至る危険が特に高い感染症です。予防接種は必ず受けましょう。
■ 参考サイト
日本小児科学会:日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール
任意接種
ワクチンの効果は4~12年で弱まってくると考えられているため、接種後、時間が経ち免疫が弱まったころに大人が感染、流行することがあります。
そこで、以下の任意接種も推奨されています。
〇 就学前の接種(4~6歳)
百日咳ワクチンの免疫は、小学校入学前に低下することがあります。そのため、就学前のMRⅡ期(麻疹・風疹ワクチン)の定期予防接種のときに、三種混合の同時接種が推奨されています。
〇 15歳以上 / 大人の接種
三種混合を接種します。特に、前回の百日咳ワクチンの接種から4~12年以上経過している場合や身近に1歳未満の乳児がいる場合などは、より推奨されます。
〇 妊婦への接種
欧米では、妊娠中のある一定の時期に、百日咳のワクチン接種を推奨している国もあります。これは妊婦自身が百日咳にかかることを防ぐと同時に、赤ちゃんが百日咳の抗体(免疫)を獲得した状態で生まれることになり、乳児早期の感染を予防することを目的としています。
日本では、妊婦への百日咳ワクチンの接種に関する明確な指針はまだなく、検討段階です。
任意接種の場合、費用は自己負担になります。具体的な料金は医療機関によって異なりますが、目安としては1回5,000円~7,000円程のところが多いようです。
また、市区町村によっては、費用の一部を助成して接種できる場合があります。詳しくはお住いの市区町村に問い合わせてみましょう。
百日咳の検査 早期診断できる検査が豊富に
症状や経過、周囲の流行状況などの問診に加えて、視診、聴診、触診など一般的な診察から百日咳が疑われると、確定診断のために検査をします。
検査方法には百日咳菌検出試薬キット(LAMP法)のほか、細菌培養検査、血液検査があります。
以前は、結果がわかるまでに期間を要した百日咳の検査ですが、2016年からは、早期診断に役立つ百日咳菌検出試薬キット(LAMP法)といくつかの血液検査が保険適応になりました。
百日咳菌検出試薬キット(LAMP法)
2016年から保険適応になった検査です。検査の中でいちばん早く結果わかります。
鼻の奥に細い綿棒を入れて粘膜をこすり、採取した分泌物に百日咳菌が含まれているかを調べます。
受診した医療機関で院内検査ができる場合は数時間で結果がわかりますが、院内検査ができない場合は検査会社に依頼するため結果がわかるまでに3日前後かかります。
この検査は、症状があらわれてから4週間以内であれば、正確性が高い検査です。
一方で4週間を超えてしまうと、十分に百日咳菌が採取できず陰性になってしまうことがあります。そのため、症状があらわれてから4週間を超えている場合は、別の検査を検討する必要があります。
培養検査
検出試薬キットと同じく、鼻の奥に綿棒を入れて分泌物を採取するところまでは同じですが、培養検査は採取した菌が増えるのを待って検査をするため、結果が出るまでに1週間程度かかります。
正確性が60%以下と低くく、症状があらわれてから2週間を超える場合や検査前に抗生物質を服用している場合、ワクチンを接種している場合などは、さらに正確性は下がります。
血液検査
採血をして血液中の百日咳の抗体(免疫反応)を調べます。通常は、症状があらわれてからすぐに1回とその2~4週間後に1回の計2回の採血をして、その数値の差をみて判断をするため、結果が出るまでに3~4週間程度かかります。
血液検査の結果などによっては、1回の血液検査で診断がでる場合もあります。
症状があらわれてからどれくらい経っているかによって適した検査が異なるため、これらの検査を使い分けてより正確な診断をします。
また、百日咳の確定診断をだすまでには時間を要することが多いため、確定診断を待たずに治療を開始することがあります。
治療は抗生物質の服用 早期治療が最も効果的!
治療には、マクロライド系の抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)が主に使われます。
抗生物質の種類や症状によって服用期間は異なりますが、5日以上の服用が必要になることがほとんどです。
剤形は粉薬と錠剤があり、症状のほかに、年齢や飲みやすさなどで選びます。
特に、症状があらわれてから1~2週間目(カタル期)のうちに服用をはじめられると、細菌の増殖が抑えられ、症状を軽くする効果も期待できます。そして、薬を飲みはじめて5日以内には検査が陰性になる程度に百日咳菌を減らすことができます。
一方で、症状があらわれてから3~6週間目(痙咳期)になると、細菌はすでに増えてしまっているため、症状に対する効果はあまりありません。しかし、ほかの人へのうつしてしまうことを防ぐため、体内の細菌を殺菌する目的で抗生物質を服用します。
抗生物質での治療をしなかった場合は、症状があらわれてから約3週間は細菌が排出され続け、周囲を感染の危険にさらし続けることにもつながります。
このように、早期の治療が重要であることや乳児期には重症化する危険があるため、症状から百日咳を疑った場合は、確定診断を待たずに抗生物質による治療を開始することがあります。
そのほか、咳に対して鎮咳去痰(ちんがいきょたん)剤や気管支拡張剤など、対症療法的な薬が処方されることもあります。
保育園・学校への登園・登校の目安
百日咳菌は麻疹(はしか)ウイルスと同等とされるほど感染力が強いと考えられています。そのため、集団感染を防ぐ目的で制定された学校保健安全法施行規則でも、麻疹(はしか)と同じく流行性が高いと考えられる第二種に分類され、出席停止期間は以下のように定められています。
〇 百日咳にあつては、特有の咳が消失するまで又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで。
引用) 学校保健安全法施行規則
処方された抗生物質を飲み切っても、しばらく咳が続くことがありますが、感染力は弱まっているので登園、登校することができます。
学校保健安全法施行規則で出席停止と定められている場合は、通常の欠席とは扱われません。詳しい届け出方法は、各学校や保育園などの教育・保育施設に確認しましょう。
似ている感染症 マイコプラズマ / クラミジア / アデノウイルス
百日咳と似たような症状がある感染症としては以下のようなものがあります。
〇 百日咳と症状が似ている感染症
- マイコプラズマ感染症
- 【医師監修】その症状マイコプラズマ肺炎かも…1ヶ月咳が止まらない!?
- アデノウイルス感染症
- クラミジア肺炎
など
症状だけで百日咳とこれらの感染症を区別するのは難しく、経過や検査結果などを総合して診断します。
激しい咳や1~2週間と長引く咳がある場合は、自己判断をせずに早めに医療機関を受診しましょう。