第5回新型コロナウイルス感染症に関する調査 『かかりつけ医が診療・検査の役割を担うために必要なこととは?』
厚生労働省は、都道府県に対し新型コロナウイルスに加えて、季節性インフルエンザ流行による発熱等の症状が増加することに備え、10月中に新たな相談・受診体制の整備を求める事務連絡を発出しました(新型コロナウイルス感染症対策推進本部, 令和2年9月4日付、「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」)。
これにより「かかりつけ医」等の地域の身近な医療機関が、保健所などに代わって新型コロナウイルス感染症の電話相談を受け付け、診療・検査を行う役割を担うことが期待されます。
一方で、「かかりつけ医」となる多くの中小医療機関では、受診控えによる厳しい経営状況、院内感染対策の遅れやオンライン診療の普及が進まない現状が見られます。
体制整備に向けて、医療機関の課題はどこにあるのか、いかなる支援を必要とするのか。臨床医師に、診療現場の実情と考えを聞きました。
目次
第5回新型コロナウイルス感染症に関する調査の概要
調査目的
4月、5月、6月に行った調査結果と比較するかたちで、診療現場にいる医師の実感を掴み、医療機関の対応状況、医療資材の不足状況、医師の意識の変化を見る。
調査概要
当社サービスにご協力をいただく医師とのコミュニケーションサービス"Doctors Square"登録会員医師で、3月の第1回アンケートに回答のあった817名を対象に実施しました。
1. 調査対象
Doctors Square登録会員医師のうち、3月の第1回アンケート調査に参加した方
2. 調査方法
インターネットアンケート
3. 調査期間
2020年8月25日(火)~31日(月)
4. 有効回答者数
561名(対配信数:68.7%)
5. 配信対象者の属性
全国の病院、診療所の勤務医及び開業医
6. 主な調査内容
- 来院患者数の変化、患者からの問い合わせ状況
- 感染疑いのある患者の診察件数、検査状況、実施可能な検査、検査にかかる日数
- 医療現場で困っていること、院内感染対策
- 必要な備品・資材、情報の充足状況、スタッフの充足状況・疲弊状況
- 国の感染拡大防止策について、以前の生活に戻るために必要なこと、収束時期
- 後遺症と思われる症状の診察経験 など
調査結果
- 院内感染対策が出来ている診療所・小規模病院はいまだ半数に満たない。医療資材不足は改善傾向にあるものの、「N95マスク」は半数が、感染防護服は3割以上が不足
- インフルエンザの同時流行に備え、相談・診療・検査の役割が期待される診療所・小規模病院のPCR検査実施率は1割。来院患者数が減っている、感染対策が十分に出来ないとの声も相対的に高い
- コロナウイルス感染症の後遺症と思われる症状は多岐にわたる
※これらは調査結果の一部です。その他の結果は、以下にて公開しています。
第5回調査結果(2020年8月実施)
※過去の調査結果
調査結果の詳細
(1) 医療機関の規模により感染対策に差。医療資材の優先的な供給が課題
これまで、新型コロナウイルス感染の疑いがある場合には、相談・受診から検査実施まで、保健所設置の「帰国者・接触者相談センター」または地域に設置された「地域外来・検査センター」等に集約されてきました。こうした受診相談窓口について医師に「正しく機能していると思うか」を尋ねたところ、漸増していた「機能していると思う」との回答は、今回再び減少し、6月調査よりも10ポイント低い4割弱となりました。7,8月の感染者数増加に、受診相談窓口の対応が追い付かない状況が反映されたと思われます。(図1)
では、今後、診療や検査を担うことが期待される地域の医療機関で、「院内感染対策」はどの程度進んでいるのでしょうか。回答医師全体では、「出来ている」が過半数を占めました。しかし、診療所・小規模病院に限るとその割合は半数に満たず、まだまだ院内感染対策に課題があることが分かります。(図2)
院内感染対策には、マスクや防護服、手袋、消毒用製剤など、医療用資材の十分な確保が不可欠。医療資材の充足状況は4月以降継続して改善しており、8月には「全く足りていない」と「あまり足りていない」の合計が約3分の1にまで減少しました。(図3)
「足りている」を除く回答者に、不足医療資材を質問したところ、(改善はみられるものの)未だ「N95マスク」は半数が、「ガウン・エプロン」「サージカルマスク」「感染防護服」「消毒用エタノール、消毒用アルコール」も3分の1以上が挙げています。
また、医療施設以外でもニーズが高まっている「手袋」は前回調査からやや上昇し、3割弱が不足していると回答しました。
医療機関に必要な資材を確実に届ける体制の更なる改善が待たれます。(図4)
(2) PCR検査を実施している診療所・小規模病院は1割に留まる
地域の身近な医療機関は、医療提供体制整備にともない、診療・検査が可能である場合には「診療・検査医療機関(仮称)」として指定されることになります。医療機関の検査状況は実際どうなっているのでしょうか。検査が可能な医療機関はどれくらいあるのでしょうか。
新型コロナウイルスの検査を必要と判断した医師が、実際にどの程度検査を行えたかを見ると、「全て検査を行った」が64%まで増加しました。逆に言えば、「検査を行えない場合があった」がまだ3割以上残る現状が示されています。
それでは、自院で検査、特に「PCR検査」が実施できる医療機関はどれくらいあるのでしょうか。今回、「実施可能」と回答したのは、中規模以上の病院でも半数強、10月より新たに「診療・検査医療機関(仮称)」となることを期待される診療所・小規模病院では、僅か1割に留まります。(図5)
次に、「検査を依頼してから実施されるまで」と「検査を実施後、結果が判明するまで」の日数を尋ねました。自施設でPCR検査が可能な場合、検査の実施まで平均1.07日+検査後結果が判明するまでは平均1.55日、合計すると約2日半となりました。他機関に要請して検査を実施する場合には、同じく平均1.99日+平均2.04日で、合計4日程度かかっているようです。(図6)
検査日数短縮のためにも、より多くの医療機関で診療・検査ができることが期待されます。新たな医療提供体制構築には、受け皿となる医療機関が抱える課題に目を向ける必要があります。今、「医療現場で困っていること」は何かを尋ねました。
新型コロナウイルスの疑い患者を診察した医師では「一般的な疾病に比べて診療にかかる負担が大きいこと」、感染症指定医療機関では「治療を行う上での情報が不足している」がやや高めでした。また、診療所・小規模病院では「検査ができない」「患者さんの来院数が減っている」「感染対策が十分にできない」などが相対的に高くなっています。「受診控え」や「診療にかかる負担」等が経営を圧迫し、厳しい状況が続いている医療機関がかなりの数に上る中、経営面、医療物資面、医療機関の情報共有面でのサポートの強化が急務と思われます。(図7)
(3) 後遺症と思われる症状は多岐にわたる
今回の調査では、新型コロナウイルスの後遺症と思われる症状のある患者の診察経験も尋ねました。
回答者全体で「診察した」は6%でしたが、新型コロナウイルスの疑い患者を診察した医師では10%、感染症指定医療機関に限ると16%でした。
■後遺症と思われる症状内容(抜粋)
味覚障害(埼玉県・脳神経外科)/味覚嗅覚障害(大阪府・消化器科内科(胃腸内科))/易疲労感、うつ状態(大阪府・内科)/だるさが取れないこと(茨城県・内科)/倦怠感(福岡県・外科)/微熱(福岡県・外科)/しびれ(福岡県・外科)/神経障害(北海道・内科)/息苦しさ(東京都・小児科)/呼吸困難症状(京都府・外科)/咳がでる(山形・腎臓内科)/肺障害(埼玉県・内科)/頭痛(神奈川県・皮膚科)/嚥下困難(北海道・呼吸器内科) 他
具体的には、「味覚や臭覚の障害」、「うつ状態」、「倦怠感」、「息苦しさ」、「肺障害」、「痺れ」、「微熱」など多岐にわたる症状が挙がりました。
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