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【医師解説】見た目は軽症、じつは重症…スマホが原因になることもある「低温やけど」の危険な実態

公開日: 2025年12月17日
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「低温やけど」をご存知でしょうか?「低温」という名称から、通常のやけどよりも軽いものという印象を抱く人もいるかもしれませんが、じつは皮膚の奥深くまでダメージが及び、治療が長引いたり手術が必要になったりすることもある危険な外傷だそうです。

湯たんぽやカイロ、こたつ、スマートフォンなど、日常生活の身近な場面で誰にでも起こり得る低温やけどの仕組みや原因、初期症状、正しい対処法と予防のポイントなどについて、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。

医師紹介

国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。

日本外科学会外科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本骨粗鬆症学会認定医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定スポーツ医

低温やけどは皮膚の「低温調理」!?一般的なやけどとの違いとは

低温やけどは、その名前の響きから「軽症」と誤解されがちですが、じつは通常のやけどよりも治療が難しく、重症化しやすい非常に厄介な外傷です。
 
一般的なやけど(高温やけど)と低温やけどの最大の違いは、「皮膚が受けるダメージの深さと見た目のギャップ」です。
 
一般的なやけどは、熱湯や炎など高温の熱源に一瞬触れることで生じます。激しい痛みを伴うため、反射的にすぐに逃げることができ、損傷は皮膚の表面(表皮や真皮浅層)に留まることが多いのが特徴です。
 
一方、低温やけどは「温かい・心地よい」と感じる44℃〜50℃程度の温度に、長時間(数十分〜数時間)触れ続けることで発生します。熱いと感じないため回避行動がとれず、熱がじわじわと皮膚の奥深くまで伝わります。
 
これを料理に例えると、表面だけを焦がす「強火のグリル」ではなく、内部まで完全に火を通す「低温調理」のような状態が人間の皮膚で起きてしまうのです。
その結果、見た目は少し赤いくらいでも、実際には皮膚の全層、さらには皮下脂肪まで細胞が壊死(えし)していることが多く、「見た目は軽そうだが、中身は重症」というのが低温やけどの最大の特徴であり、恐ろしい点です。

寝ながらスマホも危険!日常生活に潜む低温やけどの「原因」

低温やけどは、44℃なら約6時間、50℃なら約3分間、皮膚の同じ場所に熱源が触れ続けることで発生します。特に自宅でのリラックスタイムや就寝中に多く発生します
 

低温やけどの原因となりやすい器具

  • 湯たんぽ/電気あんか: 最も多い原因です。布団の中で足元に置いたまま寝てしまい、知覚が鈍くなる睡眠中に発症します。
  • 使い捨てカイロ: 靴の中に入れたままや、貼るカイロを直接肌に近い状態で長時間使用することで起きます。
  • 電気カーペット/こたつ: うたた寝をしてしまい、体重がかかっている部分(お尻や膝など)の血流が悪くなり、熱がこもりやすくなることで発症リスクが急上昇します。
  • スマートフォン/ノートPC: 充電しながらのスマホを抱いて寝たり、膝上で長時間PC作業をすることも近年の原因として増えています。


低温やけどに注意が必要な状況・人

  • 飲酒後や睡眠薬服用後:深い眠りで熱さに気づけません。
  • 高齢者/糖尿病の方:感覚神経が鈍っている場合、熱さを感じにくいため非常に危険です。
  • 乳幼児:自分で熱源から離れることができません。

「痛くないから大丈夫」は絶対NG!低温やけどの初期症状

「痛くないから大丈夫」は絶対NG!低温やけどの初期症状

初期症状は非常に地味で、本人が気づかないことさえあります。これが発見と治療を遅らせる要因です。
 

痛み

受傷直後は「なんとなくヒリヒリする」程度の軽い痛みか、あるいはまったく痛みを感じないことも珍しくありません。これは神経までダメージを受けて感覚が麻痺しているためです。 

皮膚の色

最初は軽い赤み(発赤)が出る程度です。しかし、数日〜1週間と時間が経つにつれて、赤みが紫色や灰色、白っぽい色、最終的には黒色へと変化していきます。 

水ぶくれ

受傷直後ではなく、半日〜1日経ってから水ぶくれができることが多いです。
 
「痛くないから大丈夫」は低温やけどにおいて最大の禁句です。「赤いだけで痛くない」「皮膚が白っぽく変色している」場合は、すでに皮膚の全層が壊死している重症(III度熱傷)の可能性が高く、専門医の目から見れば緊急事態と言えます。

低温やけどになってしまったときの処置方法は?

もし「低温やけどかもしれない」と思ったら、以下の手順をとってください。
 
1.まず熱源を外す(カイロを剥がす、電気毛布を切るなど)。

2.ただちに冷却する
まずは水道水などで患部を冷やし、残っている熱を取り除きます。ただし、一般的なやけどほど急激に冷やす必要はありません(すでに組織が死んでいることが多いため)。心地よい程度の温度で冷やしてください。

3.何も塗らずに保護する
自己判断で薬を塗らず、清潔なガーゼやラップで患部を覆い、菌が入らないようにします。
 
4.「すぐに」専門医を受診する
これがもっとも重要です。皮膚科、または形成外科を受診してください。
 
低温やけどは自然治癒が非常に難しい傷です。壊死した組織(死んだ皮膚や脂肪)は細菌感染の温床となり、放置すると感染症を引き起こして全身に影響が出ることもあります。深さによっては死んだ組織を切除し、自分の皮膚を移植する手術(植皮術)が必要になるケースが、多くの人が想像する以上に多いのです
 
「たかがやけど」と思わず、必ず病院へ行ってください。

よかれと思っての行動が逆効果になることも!低温やけどでのNG行為

よかれと思って行った処置が、かえって症状を悪化させたり、専門医による治療の妨げになったりすることがあります。

1. 病院を受診せず様子を見ること
「市販薬で治るだろう」と1〜2週間様子を見て、黒く壊死してから来院される方が後を絶ちません。時間が経つほど感染リスクが高まり、治療期間が長引きます。
 
2. 水ぶくれを破ること
水ぶくれの膜は「天然の絆創膏」です。無理に破るとそこから雑菌が入り、感染を引き起こします。
 
3. 民間療法を行うこと
アロエ、味噌、馬油、冷却ジェルシートなどを貼るのは絶対にやめてください。感染源になるだけでなく、傷の状態が見えなくなり診断の妨げになります。
 
4. 強力に圧迫すること
患部をきつく縛るような処置は血流をさらに悪化させ、組織の壊死を広げてしまいます。

低温やけどにならないための予防方法は?

低温やけどは「不注意」ではなく「知識不足」から起こります。正しい使い方を知っていれば防ぐことができます。とくに以下の4つを意識するようにしてください。
 
1.就寝時の湯たんぽは「布団を温める道具」と割り切る
寝る前に布団に入れて温めておき、布団に入る時には必ず布団から出すのが鉄則です。どうしても入れたままにする場合は、体から十分に離した位置に置いてください。
 
2.熱源を直接肌に当てない
カイロは必ず衣類の上から貼る、湯たんぽは専用の厚手のカバーやバスタオルで何重にも巻くなど、直接熱が伝わらない工夫をしてください。
 
3.タイマー機能を活用する
電気毛布や電気カーペットを使用する際は、眠ってしまっても自動で切れるようタイマーを設定してください。
 
4.注意が必要な状況・人は熱を発するものを使用しない
前述した低温やけどに注意が必要な状況・人(飲酒・睡眠薬の投薬時、高齢者や糖尿病の方、乳幼児)は、そもそも低温やけどの原因になり得る熱源を使用しないことが最大の予防です。
 
皮膚科や外科・救急の医師は、毎年冬になると低温やけどで皮膚移植手術が必要になる患者さんを数多く診察します。
 
「自分は大丈夫」と思わず、暖房器具などの扱いには細心の注意を払ってください。

※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。