前立腺肥大症の原因・症状・治療法と予防のポイントを解説
医師紹介
前立腺肥大症とは
前立腺は男性にしかない臓器で、膀胱のすぐ下に尿道を囲むように位置しています。この前立腺が大きくなり、尿道を圧迫して、尿に関連するさまざまな症状(排尿症状)があらわれる疾患が前立腺肥大症です。
原因
前立腺が大きくなる原因はわかっていませんが、男性ホルモンの変化が関連していると考えられています。明らかなリスク要因としては、加齢があげられます。前立腺は、50歳以降から大きくなる傾向があり、80歳代になると約90%が前立腺肥大症の状態であるとされています。
そのほか、遺伝的な要素に加え、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症、メタボリック症候群などの生活習慣との関連も指摘されています。
症状
尿が出にくくなるなどの「排尿症状」、尿が溜められなくなる「蓄尿症状」、残尿感などの「排尿後症状」と、大きく3つの症状にわけられます。さらに、そのような症状が以下のように、3つの段階にわたって進行します。
第1期(膀胱刺激期)
前立腺が大きくなりはじめて、膀胱や尿道が刺激され、排尿がしづらくなってきます。主に以下のような症状があらわれます。
頻尿 / 夜間頻尿 / 尿が出づらい / 尿を出しきるまでに時間がかかる など
第2期(残尿発生期)
前立腺がさらに大きくなり、尿道が圧迫されます。そのため、尿を完全に排出できなくなり、その尿が膀胱に残るようになります。第1期の症状も強くなり、さらに以下のような症状が加わります。
残尿感 / 力まないと排尿できない / 尿意があるのに排尿できない など
第3期(慢性尿閉期)
増加した残尿で膀胱が押し広げられるため、膀胱が収縮できなくなります。それにより、排尿や尿意を感じることも難しくなります。
尿が出ない / 自分の意志とは関係なく尿が漏れる(溢流性尿失禁)/ 腎機能低下 / 腎不全 など
検査・診断
はじめに、問診で排尿の状態などを確認します。そこで前立腺肥大症などが疑われる場合は、尿検査に加え、直腸触診や超音波(エコー)検査で前立腺や膀胱の状態の確認と残尿量の測定が行われます。さらに、便器のような特殊な装置に排尿をすることで、排尿の勢いや量、出しきるまでにかかった時間などを測定する尿流量測定などが行われることもあります。
治療・治療後の注意
「薬物治療」と「外科的治療」があり、一般的には身体的な負担の少ない薬物治療から開始します。軽度であれば、経過観察や生活指導などのみで、特別な治療をしない場合もあります。
薬物治療
尿が通りやすいように尿道を広げる薬や、大きくなった前立腺を小さくして尿を出しやすくする薬、膀胱の過度な収縮を抑えて尿をためやすくする薬など、症状や状態に適した薬が処方されます。薬にはさまざまな種類があるため、いろいろ試しながら適切な組み合わせを選択していきます。基本的には飲み薬による治療です。
外科的治療
薬物治療で期待する効果が得られなかった場合や、尿が出なくなることを繰り返す場合などは、手術が検討されます。最も一般的な手術は、内視鏡を使った方法です。尿道から内視鏡を挿入して、電気メスやレーザーで大きくなった前立腺を削りとる または 焼き飛ばす(蒸散)などします。
ほかにも、小さなインプラントを挿入して尿道を拡げる方法(経尿道的前立腺吊り上げ術/PUL)や、水蒸気を使って組織を壊死させることで前立腺を小さくする方法(経尿道的水蒸気治療/WAVE)など、より身体に負担の少ない方法もあります。
予防
最も大きなリスク要因は加齢ということもあり、特定の予防法はまだありません。ただ、生活習慣との関連が強い、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症、メタボリック症候群などもリスク要因としてあげられます。そのため、肥満の改善やそのような疾患の予防として、健康的な食事習慣や適度な運動習慣など、生活習慣を整えることは、前立腺肥大症の予防にもつながると考えられます。
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医師紹介
横浜市立みなと赤十字病院や横浜市立大学附属病院など、複数の基幹病院の泌尿器科に勤務。米国カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)泌尿器科への留学や、横浜市立大学附属病院前立腺低侵襲センター准教授などの要職を務め、2024年に上大岡はやし泌尿器科クリニックを開業。専門分野は、前立腺がんをはじめとした前立腺疾患、男性の性機能障害。前立腺がんの先進医療である「密封小線源治療(ブラキセラピー)」においては、2000例以上の施術実績を持つ。モットーは「患者さんに優しい医療」。専門的かつ豊富な臨床経験で地域医療に貢献する。