病院・薬局検索の病院なび

「ゲーム」なのに医師の処方が必要?塩野義製薬『エンデバーライド』が目指す新たな治療のカタチとは

公開日: 2026年09月11日
アイキャッチ画像
ゲームが医療の「新たな選択肢」になりつつあります。 2026年6月、塩野義製薬は小児期のADHD(注意欠如多動症)治療を補助するアプリ『ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)』の国内販売を開始しました。

『エンデバーライド』は医師が処方し、保険診療で使用できる「プログラム医療機器」。ゲームをプレイすることで症状の改善を目指すという新しい治療法です。

「ゲームがなぜ治療になるの?」「薬とはどう違うの?」――そんな疑問に答えるため、開発コンセプトやゲームならではの仕組み、デジタル治療が目指す未来について、塩野義製薬製品マーケティング部の坂倉敏正氏、安倍武海氏に話を聞きました。

ゲームが可能にした「二重課題」における“慣れ”という課題の解消

『エンデバーライド』のプレイ画面
『エンデバーライド』のプレイ画面

――『エンデバーライド』はADHD治療補助を目的としたアプリとのことですが、どのようなコンセプトで開発されたものなのでしょうか。

安倍武海氏(以下、安倍) 『エンデバーライド』はアメリカのAkili(アキリ)社が開発した、「二重課題」への対応をコンセプトとした、小児期におけるADHD治療補助アプリです。

「二重課題」とは高齢者向けトレーニングなどでも取り入れられているもので、たとえば「歩きながらクイズに答える」といったように、異なるふたつの課題を同時に行うものです。

「二重課題」は一定期間実施することで前頭前野が活性化するという報告もあり、ADHD患児への治療にも有効と見られていますが、難易度の調整が難しいという課題がありました。

たとえば、さきほどの「歩きながらクイズに答える」という行動も最初は難しいのですが、くり返し行うことでその行動に慣れてしまい、十分な効果が得られにくくなってしまうのです。

その点ゲームであれば、プレイする人に合わせて難易度をコントロールすることができます。『エンデバーライド』は、お子さん一人ひとりにとって「少し難しい」と感じる状態が継続するようにシステム化されています。そこが、この治療補助アプリの最大の特徴であると考えています。


――具体的にはどのようなゲームになっているのでしょうか?

安倍 『エンデバーライド』はスマートフォンなどのモバイル端末でプレイするゲームで、内容としては「ステアリング」と「タッピング」、ふたつの操作を同時に行います。

モバイル端末を傾けて「ステアリング」操作、画面タップで「タッピング」操作を同時に行う必要がある。
モバイル端末を傾けて「ステアリング」操作、画面タップで「タッピング」操作を同時に行う必要がある。(以下、すべての画像はデモ機上で動作しているものです)

画面にはプレイヤーの操作するキャラクターが表示されており、このキャラクターはコースに沿って画面奥に向かって進みます。

コース上にはチェックポイントのようなものが複数配置されているので、プレイヤーはクルマを運転するようにモバイル端末本体を傾けて、キャラクターがチェックポイントを通過できるように操作しなければいけません。これが「ステアリング」の課題。

もうひとつの「タッピング」の課題は、コース内にターゲットが出現したら画面をタップするというもの。ただし、すべてのターゲットをタップすればいいわけではなく、ターゲットの色によっては、あえて見過ごす必要もあります。


――プレイ映像を見ると、意外と難しそうな感じもしますね。

安倍 さきほど述べたとおり、「二重課題」がコンセプトなので、同時に処理する操作には慣れが必要かもしれません。

ちなみにゲームの難易度はプレイ内容に合わせて自動調整され、お子さんにとって「少し難しい」と感じる状態が続くように設計されています。

これを1日25分、6週間続けることで、ADHDの症状改善が期待できると考えられています。


――1日25分を6週間ということは、合計すると17.5時間くらいのプレイが必要ということになります。継続して取り組んでもらうための工夫などはあるのでしょうか?

安倍 『エンデバーライド』は全12ステージ構成で、ストーリーもありますので、ひたすら「二重課題」に取り組むだけのゲームではありません。また、ゲーム内で獲得したコインを使って衣装を変更したり、新キャラクターを獲得したりするといったいわゆる報酬要素も用意されています。

宇宙を舞台にしたストーリーで、全12ステージをプレイする。
宇宙を舞台にしたストーリーで、全12ステージをプレイする。

坂倉敏正氏(以下、坂倉) とは言え、あくまで『エンデバーライド』はADHD治療補助アプリです。一般的なゲームのように「遊ぶこと」を目的にしていません。そのため、途中で飽きてしまうお子さんが出てくる可能性もあります。

その点については、お子さんひとりで黙々と取り組むのではなく、ご両親も一緒に見守るなどのサポートを行っていただき、6週間続けてもらうことが大切だと考えています。

安倍 『エンデバーライド』は仕様上、1日25分までしかプレイすることができません。ADHD患者さんは依存症を合併しやすいリスクがあるため、「遊ぶこと」を目的にしない設計にしているものの、過度にのめり込んでしまう可能性はゼロではありません。それを防ぐために、1日の利用時間には上限を設けています。

楽しすぎず、のめり込みすぎず、それでいて治療として成立させる……このバランスの取り方が、『エンデバーライド』の肝になる部分ではないかと考えています。

『エンデバーライド』は「薬の代わり」ではないが「新しい選択肢」になる可能性も

――『エンデバーライド』を開発したのはアメリカのAkili社とのことですが、本アプリはどのような経緯で塩野義製薬が日本展開することになったのでしょうか。

坂倉 私たちは製薬会社として医薬品を中心に扱っていますが、それだけではなく、世界中の健康に貢献したいという思いから、「HaaS(Healthcare as a Service)」をコンセプトに掲げ、予防・診断・治療、そして治療後のフォローまで一貫して支援できる企業を目指しています。

そうした取り組みのひとつとして、薬だけでなくプログラム医療機器という新たなアプローチでも患者さんに貢献できないかと考え今回初めて治療補助アプリの展開にチャレンジすることになりました。


――アメリカで開発されたアプリを日本展開するうえでは、どのような苦労があったのでしょうか。

坂倉 『エンデバーライド』は日本への導入が決まった時点で、アメリカ本国ではすでにADHD治療アプリとして開発されていました。だからと言って、日本でもそのまま展開できるものではありません。

たとえば、アメリカでも治験は実施されていましたが、日本では日本の患者さんを対象とした有効性を確認する治験を改めて行う必要がありました。加えて、アメリカで開発されたものなので、当然ながらゲーム内の言語はすべて英語。これらを音声も含めて、日本向けにローカライズする必要もありました。

海外で開発されたアプリだが、ゲーム内は音声も含めてすべて日本語化されている。
海外で開発されたアプリだが、ゲーム内は音声も含めてすべて日本語化されている。

また『エンデバーライド』はアプリとは言え、れっきとした医療機器ですから、安全性を確保するためのさまざまなルールがあります。さきほど申し上げたとおり、治療補助アプリを扱うのは塩野義製薬として初めてのことなので、医療機器として適切に運用するためのルールづくりや管理体制を整えることも重要な対応のひとつでした。


――塩野義製薬として治療補助アプリを展開するのは初めてとのことですが、ADHD治療には薬物療法をはじめ複数の方法があるなかで、『エンデバーライド』はどのような位置づけになるのでしょうか。

安倍 エンデバーライドは、環境調整や心理社会的治療で効果不十分な際に検討を頂くことになりますが、現時点で「この場面では必ず『エンデバーライド』を使う」という明確なポジションがあるわけではありません。医師の治療方針の下、保護者や患者さんが納得される新しい選択肢のひとつになれれば、と考えています。

たとえば、「薬はできれば飲ませたくない」と考えている保護者は少なくないことが調査などで明らかになっております。そういった保護者の方々にとって『エンデバーライド』が、「まずはこちらを試してみたい」という選択肢になるかもしれません。

また、長期間薬物療法を続けている方が、「一度薬を休んで『エンデバーライド』を試してみようか」といった形で活用するケースもあるかもしれません。


――少し踏み込んだ質問になりますが、薬物療法と『エンデバーライド』を比較した場合、効果にはどのような違いがあるのでしょうか。

安倍 薬物療法と直接比較した臨床試験のデータはありません。薬剤とは全く異なる製品ですので、「薬の代わりになる」というものではなく、「新しい選択肢」として加わったという位置づけと考えております。

『エンデバーライド』だけ利用するのか、それとも薬と組み合わせるかについては、医師が保護者の方と相談しながら決めていただくものだと考えています。

海外では普及が進むプログラム医療機器、日本での展開は?

――『エンデバーライド』の対象年齢は6~17歳ですが、近年「大人のADHD」という言葉も広く知られるようになりました。成人向けの展開は考えていますでしょうか?

坂倉 現時点では、成人向けに展開する計画はありません。私たちとしても、そのようなご要望があることは認識していますが、市場のニーズを見極めながら、今後どのような形で提供できるのかを検討していきたいと考えています。

安倍 大人の場合は、「1日25分を6週間」という利用期間がネックになる可能性があるかもしれません。それこそ薬であれば数秒で服用が終わるところを、忙しい日常生活の中で毎日25分確保するのは、現実問題として大変なことかと思います。

一方で、成人のADHDを診療されている医師からは、「ぜひ成人向けにも使えるようになってほしい」という声をいただいています。

そうしたニーズも踏まえながら、今後慎重に検討していくことになると思います。


――『エンデバーライド』は2026年6月5日から国内での販売がスタートしています。実際に利用された方や、ご家族、医師からの反響はいかがですか?

坂倉 利用期間が6週間あるため、実際の利用者からの評価はまだ十分には集まっていません(取材は2026年7月実施)が、発表直後より保護者の方々から、多数のお問い合わせをいただきました。「薬ではない選択肢を子どもに試してみたい」というニーズが、想像以上に大きかったことを実感しています。

安倍 医師の方からも、本当にたくさんのお問い合わせをいただきました。とくに多かったのはやはり、「薬以外の選択肢があるのはよいことだ」という反応です。また、「保護者から『子どもに試させたい』という相談を受けたので詳しく話を聞きたい」といったお問い合わせや、「実際に使ってみたい」という声も多くいただいています。

ゲームを開始する前にはメッセージも表示される。
ゲームを開始する前にはメッセージも表示される。

そのほかには、ログ機能にも注目いただいているようです『エンデバーライド』ではプレイ時間などのデータを、処方した医師が確認できる仕組みになっているので、「これまで問診でしかわからなかった情報を、アプリのログという形で客観的に把握できることは大きい」といった評価もいただいております。

今後、医療DXが進む中で、こうしたデータを活用した医療がさらに広がっていくのではないかという期待もありますし、ログを介して医師と患者さんがコミュニケーションを取れる点も、『エンデバーライド』が提供できる価値のひとつだと考えています。


――世界的に見ると、治療や治療補助アプリの活用は広がっているのでしょうか?

坂倉 アメリカやドイツはこの分野において先行しており、とくにドイツは日本よりも保険適用のハードルが低いこともあり、プログラム医療機器が普及しています。

対象もADHDだけではありません。アメリカでは悪夢、うつ病、腰痛など、さまざまな疾患・症状に対してデジタル治療の取り組みが進められています。


――ADHD以外の疾患でもアプリ活用は広がっているのですね。御社としては、こういったデジタル技術やゲームを活用した治療の可能性について、どうお考えでしょうか。

坂倉 日本では、プログラム医療機器は患者さんや医療従事者の皆さまにとって、治療の選択肢としての認知がまだ十分に浸透していないのが現状です。

まずは、このような治療法が存在することを広く知っていただくことが大切だと考えています。

そのうえで、医薬品では実現できない、医師と患者さんをつなぐ仕組みや、自宅でも継続的に治療を支援できるという点が、デジタル治療の大きな魅力だと思っています。

安倍 医療資源の不足への対策として、今後オンライン診療の需要はさらに広がっていくと考えられます。オンライン診療にはさまざまなメリットがある一方、やはり直接対面で行う診療に比べると、医師と患者さんのあいだでの情報共有には限界があります。

『エンデバーライド』のようなデジタル治療は、そういった不足を補う存在になれるのではないかと考えています。

また、さきほどお話ししたように、プレイデータを活用することで「こういう傾向のお子さんには、こうした支援が有効なのではないか」といった新しい発見につながる可能性もあります。

今回の取り組みをきっかけに、デジタル技術を活用して医療を支えていく世界が実現できればと思っています。


■塩野義製薬 公式サイト

■プレスリリース「ENDEAVORRIDE®(エンデバーライド)」新発売のお知らせ

編集部注:記事内にもあるように、「エンデバーライド」は一般販売されているものではなく、医師の処方によって利用可能になる治療補助アプリケーションです。処方の希望等は、必ず医師にご相談ください。

取材/文:病院なび MediQA編集部

関連記事

※記事の内容は記載当時の情報であり、現在と異なる場合があります。