加熱しても「毒」は消えない!?秋の味覚「銀杏」を食べるときに知っておきたい中毒のリスク

じつは銀杏には、過剰に摂取すると吐き気や嘔吐、けいれんなどを引き起こす成分が含まれています。しかも、「加熱すれば大丈夫」というわけではなく、とくに小さな子どもは注意が必要です。
銀杏は何個くらいまでならよいのか、なぜ中毒が起こるのか。銀杏に含まれる栄養素や安全に楽しむためのポイントとあわせて、林外科・内科クリニックの林裕章理事長に解説してもらいました。
医師紹介
国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。
目次
銀杏にはどのような栄養素が含まれており、健康面でどのようなメリットが期待できるのでしょうか?
銀杏はナッツの仲間に思われがちですが、正体はイチョウの種で、脂質の多いナッツ類とは違ってでんぷんが主体です。

「銀杏は食べ過ぎると中毒を起こす」といわれますが、なぜ銀杏によって中毒が起こるのでしょうか?
原因は、銀杏に含まれるギンコトキシン(4′-O-メチルピリドキシン)です。

ギンコトキシンはビタミンB6と構造がよく似ているため、体はこれを本物と取り違え、ビタミンB6が働けなくなります。すると脳の興奮を抑える物質(GABA)が作られにくくなり、神経が過剰に興奮してけいれんが起こります。
毒がたまるというより、脳のブレーキをつくる材料を奪われた状態です。
症状は吐き気、嘔吐、ふらつき、手足の震え、意識障害、全身のけいれんなどで、けいれんは繰り返すことがあります。
現れるのは食後1〜12時間、多くは4〜5時間後で、食事の片づけが済んだころに始まるため原因に気づくのが遅れがちです。
よくある誤解として「火を通せば毒が消える」と思われがちですが、ギンコトキシンは熱に強いため、炒る、焼く、ゆでるといった調理をしても中毒のリスクは消えません。
問題になるのは、殻を割りながら次々と口に運べる炒り銀杏のような食べ方です。
こうした症状が出たら、すぐに救急車を呼んでください。無理に吐かせると、吐いたものが気管に入って肺炎や窒息を招きます。
けいれん中に口へタオルや指を入れるのも危険です。周囲の危険なものをどけ、けいれんが収まってから体ごと横向きにしてください。
受診の際は、いつ何粒食べたかをお伝えください。医療機関では診断さえつけば、不足したビタミンB6を点滴で補い、原因がはっきりしている分よく効きます。
ただし、サプリメントを先回りして飲めば防げるという証拠はありません。
銀杏は1日に何個くらいまでなら食べても問題ないのでしょうか?
「大人は10個、子どもは5個まで」といった目安を見かけますが、絶対に安全と証明された数はありません。

粒ごとにギンコトキシンの量が違い、食べる人の年齢や栄養状態でも影響が変わるためです。
報告された中毒量にも、子どもで7粒から、大人で40粒からと大きな幅があります。同じ量でも平気な人と倒れる人がいるのは、ビタミンB6の余力の差です。
最も注意が必要なのは小さなお子さんです。体重当たりの量が多くなるうえ、ビタミンB6の蓄えにも余裕がありません。日本中毒情報センターには、5歳以下の子どもが6〜7粒でけいれんを起こした例が寄せられています。
小さな子どもの場合、のどに詰まらせる危険もあります。
消費者庁は、硬くてかみ砕く必要のある豆やナッツ類を5歳以下の子どもには食べさせないよう呼びかけていますが、つるっとした銀杏がのどに落ちれば起こることは同じです。
中毒と窒息、二重の意味で、幼い子どもには向かない食べものだと考えてください。
大人でも、偏食ぎみの方やお酒を毎日たくさん飲む方は影響を受けやすくなります。お酒はビタミンB6を消耗させ、おつまみとしてつい手も伸びるからです。結核の治療薬などビタミンB6が不足しやすくなる薬を飲んでいる方も同様です。
高齢の方や妊娠中の方は、そもそも安全な量のデータがありません。料理に入った数粒を味わう程度なら心配は要りませんが、大人でも10粒ほどで手を止めておくのが安心です。
食べる量のほかに、気をつけることはありますか?
銀杏拾いでのかぶれです。落ちている実の、強く匂う黄色い部分(外種皮)にはギンコール酸が含まれ、ウルシと同じ仕組みでかぶれを起こします。

素手で拾うと、数時間から2、3日おくれて強いかゆみや水ぶくれが出ます。何年も平気だった人が急にかぶれ出すこともあります。
ウルシやマンゴーで荒れた方は特にご注意を。拾うときも皮をむくときも手袋を使ってください。
電子レンジで殻ごと加熱すると内部の水分が膨張して破裂します。封筒に入れて口を折り、短時間ずつ加熱してください。
なお、イチョウ葉のサプリメントは葉から抽出した別物で、種である銀杏とは関係がありません。血液を固まりにくくする働きがあるとされ、ワルファリンなどと併用して出血した報告があります。手術や歯の処置の前には、飲んでいることを必ず伝えてください。
手袋をして拾い、数粒を味わい、子どもには回さない。それだけで、秋の味覚を安全に楽しむことができます。
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※本記事は特定の病気・症状について一般的な医学情報を解説したものであり、個々の症状や状態に対する診断・治療を保証するものではありません。症状の現れ方・原因・経過には個人差があり、記事内容がすべての方に当てはまるとは限りません。また、本記事の内容は公開日時点の医学知識をもとに作成していますが、ガイドライン・診療方針は変更になる場合があります。


ゆでた銀杏は100gあたり169kcal、炭水化物35.8g、脂質1.5g。100gは殻と薄皮を除いた実で40〜60粒ほど。10粒ならおよそ20g、35kcal前後です。
カリウム、ビタミンB1、葉酸のほか、木の実には珍しくビタミンCも100gあたり23mg含まれます。ただしこれらは100g当たりの数値で、実際に口にする5粒10粒では1日の必要量のごく一部です。
栄養をとるための食品というより、季節の味として数粒楽しむものとお考えください。
一方、ビタミンB6はごくわずかしか含まれません。そして後述する銀杏の中毒は、まさにこのビタミンB6をめぐって起こります。